歪んだ友情
少女達の幼い動機と心の闇
映画「FUN」の基となった事件

一緒なら地獄に落ちてもいいと思えるほどの親友はいますか?
2人の少女は出会ったその日に意気投合し、手に手を取って駆け出した。
同じような生活環境、同じような悩み、そして同じようなトラウマ。
この事件が起きたのは1983年のアメリカ。
とあるコンドミニアムの部屋を1つずつ訪ねていた2人の少女は、ある部屋で優しいおばあさんと出会った。
「あの、電話を貸して頂けませんか?」
少女達の申し出を快く受け入れたおばあさんは次の瞬間――ナイフで28回、滅多刺しにされてしまったのだ。
1983年6月14日。
アメリカ、カリフォルニア州サクラメント。
この町のコンドミニアムに住んでいた一人の女性、85歳のアンナ・ブラケット。
事件が発覚したのは、アンナの息子であるカールが家を訪ね、変わり果てた母の姿を見つけたことがきっかけだった。
部屋は血の海と化していた。
首から血を流し倒れていたアンナは、のちに分かったことだが――少なくとも28回 ナイフで刺されていたのである。
そのあまりにも惨い犯行現場に息子のカールは当初、精神異常者の犯行だと思ったという。
最愛の母がこのような姿にされてしまったことを現実として受け入れられなかったのか、カールはそれらを見つめながらぼんやりと、ホラー映画の「サイコ」を思い浮かべたそうだ。
しかし我に返ったカールすぐさま警察に通報し、警察はその日のうちに犯人を逮捕した。かなりのスピードで犯人逮捕まで至った理由は、その犯行があまりにも杜撰だったからだ。
犯人は犯行前に多くの人に目撃されたおり、あろうことか犯行時の感想を書いた日記まで残していた。
捕まったのは2人の少女。
15歳のシンディ・リー・コリアーと、14歳のシャーリー・キャサリン・ウルフ。
シャーリーは自身の日記に こう書き残していた。
「今日、私はシンディと施設から抜け出しておばあさんを殺した。すっごく楽しかった!」
◆少女達の共通点
シャーリー・キャサリン・ウルフ
1969年アメリカ、ニューヨーク州ブルックリンの生まれ。
シャーリーが育った環境は酷く荒んでいた。
アルコール依存症の父親はすぐに暴力をふるう男で、幼いシャーリーは父の虐待を受けながら生活していたのだ。
父の顔色を窺い、暴力をふるわれる度に心を硬く閉ざして耐えていた日々。しかしそんなシャーリーの運命は、更に悲惨な方へと転がってしまう。
1978年、シャーリーが9歳の頃――
ウルフ一家はニューヨークからカリフォルニアへと引っ越した。その頃からなんと、父親による性的虐待が始まったのだ。
父親は9歳のシャーリーを力任せにねじ伏せ、幼い体を欲望のままに貪っていた。
やがてシャーリーが初潮を迎えると、父親はあろうことかシャーリーに避妊用のピルを飲ませて更に娘を強姦し続けた。
家庭内で行なわれる虐待は、外部に発覚しにくいという特徴がある。
しかし奇跡的にも父親の犯行は発覚し、ようやくシャーリーは父親から解放された。性的虐待が始まってから約4年後のことだった。
しかし父親は僅か100日間の拘禁をされただけで釈放され、これまで通り酒を飲むなどの自堕落な生活に戻っている。
一方でその頃、被害者であるシャーリーは児童養護施設に入っていた。そこでのちの親友にして共犯者・シンディと出会うのだ。
シンディ・リー・コリアー 犯行当時15歳。
シンディの父親は彼女が1歳の時に家を出て行き、母親はその後、別の男達を家に住まわせるようになった。男達はシンディにとっての義理の父親・義理の兄弟である。
シンディが7歳の誕生日を迎える前にやってきたその男達は、幼いシンディに暴力をふるい、性的虐待もしていたという。
シャーリーの家でもそうだが、その時に母親は何をしていたのか?
考えられる理由としては、母親も男達から暴力を受けて言いなりになるしかなかった、または家族間の犯行が世間にバレることを嫌って見て見ぬふりをしていた、などがある。
母親についての記事が無いので断定はできないが、とにかくシャーリーもシンディも、暴力から自身を助けてくれる大人が周りにいなかったのだ。
シンディの場合はそれが悪い方へと向かってしまい、彼女は次第に窃盗や強盗、暴力沙汰の事件などを起こすようになってしまった。
そのため少年院に入っていたのだがやがて児童養護施設に移ることとなり、そこでシンディはシャーリーと出会ったのだ。
2人が出会ったのは1983年6月14日、つまりは犯行当日のことだった。
◆少女達の凶行
6月14日の朝、児童養護施設で出会ったシンディとシャーリー。
2人は少し会話をし、すぐさま互いの抱えている闇を理解した。
同じような環境で育ったこと。大人の男から受けた暴力と痛み。そして性的虐待
被害者にとって強姦というのは、殺人にも匹敵するほどの恐怖と屈辱である。
2人の少女は互いの中に自身の痛みを重ね、手を繋いで呟いた。
「ここから逃げて、2人で遠くへ行こう」
特に計画があった訳ではない。
施設の居心地を確かめる時間があった訳でもない。
少女達はただ何となく、実に軽い気持ちで施設を脱走したのである。
しばらく外を歩いた2人だが、やがて「逃亡には車が必要」だということに気が付いた。
そこで近場のコンドミニアムへ出向き、停められていたたくさんの車を前に「どれにしようかな」と選び始めたのである。
いくつか良い車をピックアップした2人は今度は鍵を奪うため、駐車場の番号から判明した持ち主の部屋を1つずつ訪ねて行った。
「あの、すみません」
「何だい?」
出てきたのは夫婦だった。相手が大人2人だと分が悪い。
「何でもありません」
「あの、すみません」
「誰だ、何の用だ?」
出てきたのは若い男。力では敵わない。
シャーリーとシンディは初めから部屋の主を殺害して鍵を奪うと決めていたため、自分達でも勝てそうな相手――つまりはお年寄りを狙っていたという。
そうしていくつかの部屋を訪ねた後、彼女達が狙っていたお年寄りの女性アンナ・ブラケットと出会うことになったのだ。
「あら、どうしたのお嬢さんたち?」
「すみません、あの……電話を貸して頂けませんか?」
適当な理由を口にした2人を、アンナは快く部屋の中に入れた。
少女達に冷たい飲み物を出し、ニコニコと笑いながら話を聞くアンナ。
アンナは自身の孫と同い年くらいの2人を丁重にもてなし、1時間近くも談笑をしたという。
やがてアンナの家に、彼女の息子のカールから電話がかかってきた。「車で迎えに行くから一緒に出掛けよう」という誘いの電話だった。
アンナが電話で話している間、シャーリーとシンディは目配せをして頷き合う。
そうして受話器を置いたアンナの背後から襲いかかり、彼女を床に倒した。
シンディはキッチンから取ってきたナイフをシャーリーに渡し、それを受け取ったシャーリーは、そのままアンナの首元にナイフを突き立てた。
何度も、何度も――確認できただけでも28回、シャーリーはナイフでアンナを刺したのだった。
数十分後。
アンナの息子であるカールは、母の住むコンドミニアムを目指して車を走らせていた。その途中で、見るからにティーンエイジャーの2人の女の子がヒッチハイクをしているところを目撃。
「あんなに若い子達がヒッチハイクなんて危ないな……」
目的があったカールは車で彼女達を通り過ぎて行く。
まさかその2人の女の子が自分の母親を殺めた直後であったことなど、その時は知る由もなかった。
◆少女達の逮捕とその後
母親の無残な遺体を発見したカールと彼の奥さんは、すぐさま警察に通報した。
やってきた警察が周囲の住人に聞き込みをしたところ、2人組の少女が突然部屋を訪ねてきたという証言が次々と出てきたのだ。
しかも住人の中には、シンディのことを知っている人もいた。
なぜかというとシンディは一時期、祖父と一緒にこのコンドミニアムで暮らしていたことがあったからだ。
「僅か15歳の女の子達が、こんな惨い方法で人を殺めるとは思えない」。
とはいえ続々と出てくる証言は無視できるものではなく、警察はすぐさま2人を探すためパトカーを走らせた。
人の命を奪ってまで手に入れた車で、シャーリーとシンディは何処へ行こうとしていたのか? ――行き先は、シンディーが暮らしていた家の地下室であった。
彼女達の犯行は非常に幼いものだった。
計画性皆無で行き当たりばったりの犯行、その時の感情のまま行動した結果、結局家に戻っていたのだ。
だがシャーリーはその日の日記に書き残していた。
「今日、私はシンディと施設から抜け出して、おばあさんを殺した。すっごく楽しかった!」
やってきた警察はまずシンディに事情を聞いたが、彼女はなかなか口を割らない。そこで次にシャーリーの方に話を聞くと、彼女はあっさりと白状した。
シャーリーは嬉々とした様子でこう言った。
「私たち、すごく興奮してるの。だってこんなこと、今までやったことないから!」
シャーリーが自供してからは シンディも罪を認めてこう言った。
「私たちは反省してないし、良心の呵責も感じていないわ。あのおばあさんを殺した後、また別の誰かを殺したくなったくらい。本当に楽しかった」
裁判の結果、2人の少女には同じ判決がくだされた。
少年拘禁施設での8年間過ごすこと。
しかし事件があまりにも凶悪だったため8年という期間は伸び、2人が27歳になるまで拘禁施設で過ごすということになった。
もちろん、2人別々の施設である。
シンディ・リー・コリアーは施設内で法律を学び、短期大学を卒業し、1992年24歳の時に仮釈放となった。結婚もして4人の子供をもうけ、静かに暮らしているという。
シャーリー・キャサリン・ウルフは1995年26歳の時に仮釈放となり、その後も強盗などで何度か逮捕されたのち行方をくらませた。
その後アメリカの事件を取り扱う番組にシャーリーを名乗る女性から電話がかかってきて、現在は静かな生活を送っており、児童虐待の被害者がトラウマを克服するための手助けをしていると語ったそうだ。
★
悲惨な過去を持つ2人が出会い、突発的な犯行で無関係な女性の命が奪われてしまった本事件。
児童虐待は決して許せないが、女性を手にかけたことだって絶対に許せるものではない。
かつて命の重さを考えずに楽しかったと語った少女達の片方は、いま現在は子を持つ母親という立場になっている。彼女が当時を振り返るとき、その胸にどのような思いが浮かぶのだろう。
ルドルフ

本事件を動画で見たい方はこちら
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