辺獄インフェルノ

世界の怖い事件をまとめています

🌍 世界の片隅で起きた、真実の記録。
遠い国の出来事のようでいて、今を生きる僕たちにも通じる――
このブログでは、実際に起きた事件や人間のドラマを
静かに、丁寧に語り継いでいきます。

スタンリー・ディーン・ベイカー

戦慄のキャンプ場

カニバリストのヒッピーハイカー

 

 

 あなたには「ちょっとした問題」がありますか?

 人とは違う趣味があったり、おかしなこだわりがあったり、或いは――食人願望があったり。

 世の中には僕達の想像の及ばない願望を持った人間がいて、いつどこでそんな人達に遭遇してしまうかは誰にも分からない。

 この事件が起きたのは1970年のアメリカ。

 とある事件で逮捕された男が身体検査を受けたところ、ポケットから人間の指の骨が発見された。

「おい。これは何だ、どういうことか説明しろ」

 すると男はこう答えた。

「俺にはちょっとした問題があるんだ。……実は俺は、人食いなんだよ」

 

 

 1970年7月11日。

 アメリカ、モンタナ州 イエローストーン川。

 その日は日曜日で天気も良く、最高の釣り日和だった。

 川のほとりで釣りを楽しんでいた男性。

 ふいに、釣り針に獲物がかかった手ごたえを感じた。

「よし、大物を釣るぞ!」

 男性が竿を引っ張り、リールを撒く。

 しかし次の瞬間、釣り上げたモノを見て男性は絶叫した。

 なんと男性の釣り針に、人の体の一部と思われるものが引っ掛かっていたのである。

 男性は腰が抜けそうになるのを何とか踏ん張り、急いで車に乗り込むと1番近い牧場へと駆けこんだ。

 そこで事情を話して電話を借り、警察に通報。やってきた警官は乱流に入り、地元住民の力を借りて遺体を岸に引きずりあげた。

 イエローストーンは、人が溺れる事故が多発する場所でもある。

 溺れて亡くなった遺体には警官も慣れていたが、警官はそれを「ただの事故ではない」とすぐに確信した。

 なぜなら遺体は、両腕、膝から下、そして頭がなかったのである。分かったのは男性であるということだけ。

 

 やがて現場にやってきた検死官は、くだんの遺体を見て驚きの声を発した。

「こんなの今まで見たことがない……」

「この男性は恐らく20代前半の若者で、1日近く水に浸かっていたようだ。可哀想に20回以上、鋭利な物で刺されている」

 そこで検死官は一旦言葉を切った。

「それにこの男性、心臓も無くなっている」

 遺体の身元を特定するのに1番必要な頭と手がなくなっており、警察は頭を抱えた。

長い時間をかけて川を探しても、一向にそれらは出てこなかったのだ。

 なぜ切断する必要があったのか?

 そしてなぜ犯人は、それを持ち去ったのか?

 警察はこの事件を一種の「カルト的な殺人事件」であると考えた。

 なぜなら約1年前にはチャールズ・マンソン率いるマンソン・ファミリーが事件を起こしていたからだ。

 ――通称「シャロン・テート事件」。

 女優として活躍していたシャロン・テートが、マンソン・ファミリーの狂信的な信者によって惨たらしく命を奪われた事件である。

 人気女優が巻き込まれた事件は大々的に報道されたが、当時他にも同じような奇妙な事件が多数起こっていた。

 60年代後半は、泥沼化するベトナム戦争や公民権運動などの影響で、アメリカの若者達の間に一気にヒッピー文化が広がった時代だった。

 それと同時にLSDを始めとするサイケデリック・ドラッグが流行し、その幻覚などが原因でおよそ理解できないカルト的な事件が起きていたという。

 

 そう。この謎の事件にも、ある男の「不可解な思念」が絡んでいた。

 男の名前は、スタンリー・ディーン・ベイカー。当時22歳。

 ヒッピーで悪魔主義者で、そして「自称カニバリスト」という、かなりの危険人物だったのである。

 

 

◆恐怖のヒッチハイク

 スタンリー・ディーン・ベイカー。

 1947年、アメリカ ワイオミング州の生まれ。

 ベイカーはごく普通の家庭で育てられたが、子供の頃に「神経症」つまりストレスからくる心の病気を患い、以降は精神病院に通っていた。

 17歳の頃には病院にて電気ショックによる治療を受けたが、これによって病気は治るどころか悪化してしまったという。

 これをきっかけにベイカーは、徐々に怪しい道へと歩き始めた。人を食べることに興味を抱き始めたのもこの頃からである。

 

 またベイカーは自分のことを「イエス・キリスト」だと思うようになった。

 このような妄想を膨らませながら年齢を重ねて行き、やがては60年代後半のヒッピー文化に染まり始めた。

 髪と髭を伸ばし、LSDによって常にフラフラし、故郷で勧誘されたのをきっかけに 悪魔崇拝にハマるようになった。

 悪魔教開祖ともいわれているアントン・ラヴェイ

 ベイカーはラヴェイの悪魔教会が発行しているサタニック・バイブルを購読し、ますます危険な妄想の世界に身を投じるようになった。

「人が食いたい。どうしても食いたい」

 次第にその暗い欲求が抑えられなくなり、ベイカーはある日ついにそれを決行してしまった。

 

 1970年7月9日。

 二十歳を過ぎても職に就かずフラフラしていたスタンリー・ディーン・ベイカー。

 彼はこの日、仲間のハリーと共にヒッチハイクによる旅に出た。

 その途中でハリーと一旦別れ、一人で行動していたベイカー。ビッグ・ティンバーのハイウェイ沿いで手を挙げていると、そこに1台のスポーツカーが通りかかった。

 運転手はジェイムズ・マイケル・シュロッサー。ベイカーと同じ22歳の男性だった。

 ジェイムズは体格も良く優しい性格で、若者のヒッピー騒ぎの中、きちんとした会社に就職した真面目な青年だった。

 

 ジェイムズの目的地は、イエローストーン公園だった(1972年に国立公園となった)。するとベイカーもそこに一緒に行きたいと言い、ジェイムズは彼を車に乗せ走り出した。

 真面目なジェイムズと薬中のベイカーという組み合わせだが、それなりに会話も弾んで楽しい道のりとなった。

 イエローストーン公園に点くと「今夜は川辺でキャンプをしよう」ということになり、2人はそこでテントを張って夕食を共にした。

 

 夜も更け、そろそろ眠ろうかとジェイムズはテントの中で身を横たえる。

 程なくして寝息を立て始めたジェイムズ。

 するとベイカーはバッグパックから銃を取り出し、眠るジェイムズに向けて2回引き金を引いた。

 その動作には何の躊躇いもなかった。

 それだけではない。ベイカーは次にナイフを取り出し、ジェイムズの体に何度も振り下ろしたのである。

 その数は25回以上。

 寝込みを襲われ完全に動かなくなったジェイムズを見て、ベイカーは口元に笑みを浮かべた。

 長年の夢を叶える時がやってきた、と。

 

 

◆ちょっとした問題

 発砲し、ナイフを25回以上もふるってジェイムズの命を奪ったベイカーは、次に彼の体を解体し始めた。

 頭部と両手、両脚。

 ベイカーはジェイムズの頭を抱え、何とそのままかぶりついた。

 もはや人間のすることではない。神をも恐れぬ悪魔の晩餐が始まったのである。

 ジェイムズの耳まで食べたベイカーは、次に彼の胸を思い切り裂いた。そうして心臓を取り出し、これもまた生のまま口に含んだのである。

 ベイカーは時間をかけてジェイムズを自身の胃袋におさめ、最後にはジェイムズの指をポケットに入れた。

 本人いわく、「後で腹が減った時におやつとして食べるため」。

 ベイカーは残ったジェイムズの遺体を川に遺棄し、ジェイムズが乗っていたスポーツカーを奪ってその場を後にした。

 途中で一旦別れていたハリーと合流し、2人はジェイムズの車で旅を続けたという。

 

 2日後の7月11日。

 イエローストーン川で、変わり果てたジェイムズが釣り人によって発見された。

 警察は当初この事件をカルト的なものと予想し、何とか遺体の身元を確認しようと奔走していた。

 

 その翌日、7月12日。

 警察にジェイムズ・シュロッサーの失踪届が出された。

 ジェイムズの家族いわく、彼は「イエローストーン公園に行く」と言ったきり家に戻ってこないという。

 発見された遺体は、もしかしたらジェイムズのものかもしれない。

 警察はそうアタリをつけ、ジェイムズが乗っていたというスポーツカーの捜索を開始した。

 

 ほぼ同時刻、カリフォルニア州のモンタレーで交通事故が起きた。小型のトラックと一般車の衝突事故である。

 車に乗っていたのはもちろん、スタンリー・ディーン・ベイカー。

 そして仲間のハリー・アレン・ストロープ。

 小型トラックの運転手を含め全員無事で、トラック運転手は事故の報告をするため、1番近くのガソリンスタンドへと向かった。

 その間に、ベイカーとハリーは走って逃げたのである。

 

 事故の通報を受けた警察は、「これだ」と確信。

 トラックがぶつかった一般車の特徴は、今まさに警察が探していたジェイムズのスポーツカーと酷似していたのだ。

 駆け付けた警察が調べると、事故車がジェイムズの物であることが判明。

 トラック運転手から逃げた2人の男の特徴を聞き出す。

「ヒッピーふうの2人組は、森の方へと走って行った」

 運転手からそれを聞いた警察はすぐさま森の捜索を始めた。そうして間もなく、ベイカーとハリーが逮捕されたのだった。

 

 警察が2人の身体検査をすると、ベイカーの服のポケットから人間の指の骨と思われるものが出てきた。

 ベイカーはとっくに、おやつ用に持ち歩いていたジェイムズの指を食べきっていたのだ。

「おい。これは何だ、説明しろ」

「見れば分かるだろ、人の指だよ」

「お前、何を言っている!?」

 するとベイカーは 警察にこう言った

「俺にはちょっとした問題があるんだ。俺はな、人食いなんだよ」

I have a problem. I'm a cannibal.)

 

 

◆逮捕された食人鬼

 1970年7月13日。

 衝突事故がきっかけで逮捕されたベイカー。

 逮捕時のベイカーが所持していたのは、悪魔崇拝者向けの雑誌とLSD、そしてジェイムズの指の骨。

 ベイカーは、発見された胴体以外は自分で食べたと自供した。

 しかも取り調べ中、この男の犯行はジェイムズが初めてではなかったことが判明。

 

 約3ヵ月前の4月20日。

 サンフランシスコで、デザイナーの男性ロバート・セイラムの遺体が発見されていたのだが、その事件にも加担していたという。

 ロバートもまた27回もナイフをふるわれ、頭部はほぼ切断に近い状態となっていた。

 現場の壁にはロバートの血で、「ゾディアック」・「悪魔を救う」など、いかにもなカルト的な文言が書かれていたのだ。

 

 裁判にかけられたベイカーには終身刑が言い渡された。

 ちなみに事故当時同乗していたハリー・アレン・ストロープは刑を免除され、のちに釈放されている。

 刑務所の中でもベイカーは他の囚人に悪魔崇拝の勧誘をしたり、悪魔の集会に参加するよう声をかけたりしていた。

 また満月の夜には、オオカミのように遠吠えをするなどの奇行が見られたという。

 

 なぜベイカーがジェイムズを食べたのか?

「カニバリズム」というタイトルで本も出しているブライアン・マリナー氏の分析によると、ベイカーは「嫉妬と羨望からジェイムズを食べたのではないか」ということである。

 かつてのニューギニアなどでは、人食いの文化を持っていた部族が存在していた。

 彼らは代々受け継がれてきた伝承風習によって人を食べていたのだが、その中には 食べることによって自身の体内で消化し、やがて排泄することで食べた相手への完全なる支配・また最大の侮辱を意味しているものもあるという。

 仕事をせず怠惰な日々を送っていたベイカーには、将来への希望も社会に馴染んでいるという実感もなかった。

 そんなベイカーの目には、同い年でスポーツカーを運転し、きちんと仕事もしていて 休日にキャンプをするようなジェイムズが眩し過ぎたのだろう。

 自分と正反対のジェイムズを羨ましく思い、同時に嫉妬したベイカーは、彼を食べることによって自分の方が上だと思い込もうとしたのかもしれない――というのがマリナー氏の分析である。

 

 終身刑を言い渡されたスタンリー・ディーン・ベイカー。

 仲間のハリー・アレン・ストロープは1979 年に釈放され、その6年後1985年に、ベイカーも故郷のワイオミング州で仮釈放となった。

 現在の所在は本人の希望により非公開だそうだ。

 

 

 ★

 

 

 自らの欲を解消するため、親切なドライバーを襲ったスタンリー・ディーン・ベイカー。

 その動機がもしも本当に嫉妬なのだとしたら、ヒッピー文化が流行していた当時、同じような動機で犯罪に走った若者が他にもいたかもしれない。

 しかし軽食用に指を持ち歩くなど、単なる嫉妬だけではないような気もしてしまう。

 乗せたハイカーに襲われるなど、親切な人が被害に遭う事件というのは本当に悲しいことだと思う。

 

ルドルフ          

 

本事件を動画で見たい方はこちら

 

 

 

 

 

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