辺獄インフェルノ

世界の怖い事件をまとめています

🌍 世界の片隅で起きた、真実の記録。
遠い国の出来事のようでいて、今を生きる僕たちにも通じる――
このブログでは、実際に起きた事件や人間のドラマを
静かに、丁寧に語り継いでいきます。

マグダレーナ・ソリス

始まりは詐欺

信徒と女神と狂気の儀式

 

 

 あなたは何か信仰していますか?

 世界には様々な宗教があり、中には凄惨な事件を起こす凶悪な団体も存在している。

 なぜ一部の人間は、邪悪な宗教を生み出すのか。

 金のため、名誉のため、そして快楽のため――

 この事件が起きたのは1963年のメキシコ。

 とある兄弟が始めた、金儲け目的の宗教。

 それはやがて大勢の信徒を巻き込んだ、恐ろしい惨劇へと発展する。

 血と悲鳴に侵食された洞窟での恐怖の儀式は、なんと6週間も続いたのだ。

 

 

 1963年5月。

 メキシコ、ヴィラ・グランの町。

 この日、14歳の少年――セバスチャン・ゲレーロが地元の警察署に駆け込んできた。

荒い呼吸に真っ青の顔。何だかとてつもなく恐ろしい目に遭ったようだ。

 話を聞くと、セバスチャンは次のようなことを訴えた。

 

「洞窟の周りを歩いていたら、1つの洞窟の中から光と音が聞こえて……。見てみたらその中には、大勢の人がいたんです。……それで、人が人に刃物をふるって……血を飲んでいたんです」

 

 彼の訴えを聞いた警官たちは、その突拍子もない話を一笑に付した。

 きっとこの少年は精神的におかしくなっているか、危険な薬でもやっているのだろう。

 それでも一応は調べておくかということで、翌日になってルイス・マルティネスという警官が、セバスチャンの案内で洞窟へと向かった。

 それきり、ルイスとセバスチャンが戻ってくることはなかった。

 

 

◆始まりの兄弟

 1963年初頭、この町にはチンケな詐欺を繰り返している兄弟がいた。

 兄・サントス・ヘルナンデス。

 弟・カイエタノ・ヘルナンデス。

 ヘルナンデス兄弟は詐欺で小金を稼いでいたのだが、手っ取り早く大金を手に入れるために何をすべきか話し合っていた。

 そうして1つのアイディアを産み、早速実行に移したのである。

 兄弟はイェルバ・ブエナという孤立したコミュニティを訪れた。そこは人口約50人の小さな貧しい村だった。そして、殆どの村人は読み書きができなかった。

 兄弟はそこで、自分達を「インカの神々の予言者である」と主張した。

 

「インカの神々は、崇拝と貢物と引き換えに、山々の洞窟に隠された宝物を我らに与えてくれるだろう」

 

 兄弟はインカ神話の知識なんて少しもなく、メキシコの歴史の知識も全然なかった。それにもかかわらずイェルバ・ブエナの住民を納得させてしまったのだ。

 恐らく詐欺師兄弟の口が達者だったことと、村の人達もあまり外部の情報を知らなかったせいではないかと思われる。

 

 ヘルナンデス兄弟はその村に住み、成人した村の男女に貢物を要求した。

 食べ物や金目の物はもちろん、その体まで要求していた。

 兄弟の弟・カイエタノは同性愛者だったため、若い村人は男女共に兄弟の餌食となったのである。

 儀式の場として使われていた山の洞窟では、毎晩のように集団でのアレコレが行なわれていた。

 食うには困らないし、欲求も満たせる。

 最高の地位を手に入れた兄弟は、黒い笑顔を浮かべながら村人達を見ていた。

 

 しかしいくら神話の知識がないといえど、村人も愚かではない。

 預言者の兄弟にここまで貢物を捧げているのに、なぜ奇跡が起こらないのか?

 村では徐々に兄弟に対する不信感が芽生え始め、焦ったヘルナンデス兄弟としては 一刻も早く村人の信仰心を取り戻す必要があった。

 

 そうして町に出向いた兄弟は、「このニセモノの宗教に参加して儲けよう」ととある男女に声をかけた。

 女性の名前はマグダレーナ・ソリス、当時16歳。

 マグダレーナはモンテレーの町で、娼婦として働いている女性だった。

 男性の方は、マグダレーナの実の兄であるエリーザ・ソリス。

 エリーザは自ら客を引き、妹と客との仲介をしている男だった。

 ソリス兄妹はヘルナンデス兄弟の誘いに乗り、早速イェルバ・ブエナの村へと向かった。

 

 洞窟に集められた村人は、これから何が起きるのかそわそわしながら待っていた。

 するとそこにヘルナンデス兄弟――つまり預言者様が現れ、「彼女こそが女神コートリクの生まれ変わりだ」と、もくもくと立ち昇る煙の中からマグダレーナを登場させた。もちろんこの煙幕は彼らのトリックである。

 兄のエリーザは、聖フランチェスコの生まれ変わりという設定だったとか。ちなみに聖フランチェスコはインカの神とは何の関係もないものである。

 ともあれ村人達は、これを信じてしまった。

 特にマグダレーナとエリーザの見た目が美しかったため、自分達の前に現人神が君臨したことを大変喜んだのだという。

 こうしてヘルナンデス兄弟の不安は解消され、4人の詐欺師を頂点としたやりたい放題の宗教が生まれてしまったのである。

 余談だが、マグダレーナとエリーザの兄妹もまた共に同性愛者であったという。

 

 

◆暴君の女神

 マグダレーナとエリーザの登場により、再び信仰心を取り戻した村人達。

 洞窟ではかつてのように毎夜いかがわしい儀式が行なわれ、4人は金品と信徒を分け合って楽しんでいた。

 村人達は4人に貢がされ、その上で「古代遺跡に眠るという宝」の発掘もさせられていた。

 一応しばらくはそれでうまく行っていたのだが、やがて再び村人達はこの4人に不信感を抱き始めた。

 

 ――女神の生まれ変わりは出てきたものの、自分達の暮らしには一向に恵みがもたらされない。

 

 恩恵がないのに散々貢物を強要されては、信じられなくなるのも当然である。

 前回はヘルナンデス兄弟が策を講じた。

 それでは今回は、どうやって村人の信仰心を取り戻したのか?

 

 ここで村人の前に立ったのが、マグダレーナである。

 マグダレーナは村人から崇められるうち、本当に自分が女神であると思い込むようになっていた。

 彼女は村人にこう言った。

 

「この中に神を疑う者がいる。神々はこれを嘆かれ、この者達を生贄にせよと言っている」

 

 何の根拠もない言葉の背景には、マグダレーナ自身が己の神秘性を高めるために生贄を捧げさせようとした――つまりは単なる気まぐれな遊び心があったという。

 そうして何の罪もない村人8名が犠牲となり、その血をニワトリの血と混ぜ、兄弟や信徒によって回し飲みされた。

 

 またそれと同時期に、マグダレーナのお気に入りだった2人の女性が「脱会したい」とぼやくようになった。

 2人は仕方なく自身の体をマグダレーナに捧げていたが、これ以上はもう好き勝手されたくなかったのである。

 こっそり抜けるつもりだった女性達だが狂信的な村人に密告され、マグダレーナの大きな怒りを買ってしまった。

 マグダレーナとエリーザはこの2人を異端者と見なし、他の村人に命じて彼女らを酷い目に遭わせたのだった。

 ニセ女神・マグダレーナは完全に暴走していた。

 ある時は自身の恋人の地位に置いていた女性が男と浮気をしたことに大激怒し、彼女を十字架に縛り付けて村人達に襲わせ、最終的に魔女狩りのように火をつけたこともある。

 そしてアステカ神話に基づき、「女神は永遠の若さを保つために人の血が必要である」と主張。次々に生贄が選ばれ、マグダレーナの美貌とやらを保つための犠牲になっていった。

 その数は4人から8人と言われており、恐ろしい惨劇はなんと6週間も続けられたという。

 

 ヘルナンデス兄弟やエリーザの男連中が何をしていたかといえば、当然ながらマグダレーナに加担していた。

 資料が少ないので男連中の心境が分からないのだが、一部では薬物の影響でハイになっていたという説もある。

 この辺りの正確な情報が不明ではあるものの、確かなのはマグダレーナが村人を牛耳っていたという点である。

 

 そうしてこの悍ましい儀式を目撃した少年セバスチャンと、彼の案内で捜査に来た警官ルイスは、信徒達に捕らえられ生贄にされてしまったのだ。

 

 

◆女神たちの最後

 イェルバ・ブエナの様子を見に行ったルイスとセバスチャンが、全然帰ってこない。

 これは何かあったのかもしれないと、ヴィラ・グランの警官達がチームとなって現場へ向かった。

 少年は確か、洞窟がどうとか言っていた……。

 

 警官達がイェルバ・ブエナのコミュニティに強制捜査に入ると、たちまち銃撃戦に発展。

 詐欺兄弟の兄・サントスを含め多数の信徒も銃弾に倒れ、残りの信徒は間もなく逮捕された。

 詐欺兄弟の弟・カイエタノは、別の熱狂的な信者によって既に命を奪われていた。

 カイエタノを手にかけた信徒は、預言者である彼の体の一部を保護するため採取するつもりだったと主張したという。

 洞窟内に立てこもっていた信徒達も、多くが銃撃戦で命を失った。

 

 マグダレーナとエリーザの兄妹は、自宅で呑気にマリファナをやっていたところを発見されて逮捕となった。

 そしてこの兄妹の家の近くで、行方不明となっていた警官ルイスと、彼を案内した少年セバスチャンの無残な姿となった遺体が発見されたのだった。

 

 その後の捜索でも実に6名の遺体が発見されたのだが、逮捕された信徒は一切口を割ることなく、マグダレーナに不利な発言をすることを拒んだという。

 4人によって行なわれた詐欺カルトが村に存在していた期間は、僅か数カ月。

 マグダレーナが現れてからは約2ヵ月ほどしか経っていなかった。

 それにも関わらず、逮捕された信徒達は完全に洗脳されてしまっていたのだ。

 そのため、全ての罪でマグダレーナを裁くことができなかった。

 結局マグダレーナとエリーザは2件の殺人罪で裁かれるにとどまり、両者共に懲役50年の判決をくだされた。

 他の信徒達には、村の貧困環境や非識字であったことなどの緩和要素が考慮され、それぞれに懲役30年が言い渡された。

 マグダレーナとルイーザがその後どうなったのかは分からない。

 

 

 ★

 

 

 短期間で村人を洗脳した詐欺集団のカルト。

 名前もない団体はやがて、女神を中心に血の惨劇を引き起こしてしまった。

 小規模なコミュニティでもこのような事件に発展することはある。

 人間が人間を操り、間違っていることにも声を挙げられない状態――それこそが恐ろしく、カルトの厄介な部分でもある。

 

ルドルフ          

 

本事件を動画で見たい方はこちら

 

 

 

 

 

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