画面越しの食人鬼
戦慄のカニバルドットコム

SNS、あなたは正しく使っていますか?
その画面の向こうにいるのは友達数名ではない、顔も名前も分からない51億人の人間だ。
些細な油断が事件に繋がってしまいかねない、そんな時代。
しかし逆に、SNSのお陰で事件が発覚したこともある。
この事件が起きたのは2011年のスロバキア。
一人の男の犯行が、とあるサイトをきっかけに発覚したのだが……
投稿者が送ったメッセージに対し、男はこんな返事をした。
男が返した文面それは――
『了解です、僕があなたを食べましょう。』
2011年5月12日
スロバキアのとある町。
彼は、ネットを通じて知り合った男と会うため待ち合わせ場所に立っていた。
初めて会う相手。ネットで得た情報しか知らない相手。自然と彼に緊張が走る。
「やあ、マルクスかい?」
男の声がして、彼はにこやかにそれに応えた。
「初めまして、あなたがマテイさんですか?」
男の名前はマテイ・チュルコ、この当時42歳。
にこやかで人当たりの良い風貌のこの男、実をいうと……
「それじゃあ行こうか、僕達だけの場所へ。道具は揃えてあるから。
そこで僕が、あなたを食べてあげますよ――」

◆内に秘めたもの
マテイ・チュルコ
1968年、当時のチェコスロバキア生まれ
さして昔の話でもないのに、チュルコに関する情報は多くない。
そのため細部は不明だが、少なくとも幼少期は一般的な普通の家庭で育っていた。
幼い頃に両親は離婚したものの母親と祖母に育てられ、兄弟もいたし、父親とも定期的に連絡を取っていた。
学校でも特に仲間外れにされることはなく、人気者タイプではないが隅っこで大人しくしている性格でもなかった。
チュルコの趣味はギター等の楽器演奏、サイクリングにプログラミングと、一人で没頭するタイプのものではあったがかなりバラエティーに富んでいた。
また、教師に向かって歯向かったり挑発したりもしていたという。
そうして13歳の時、彼の心の闇が漏れだしたかのような事件が起きた。
チュルコは、自宅の隣に住んでいた年下の少年をナイフで襲い怪我をさせたのだ。
これに関する動機は分かっていないが、これがチュルコの異常な行動の始まりといっても過言ではない。
この事件をきっかけに精神科治療を受けることになったチュルコだが、その後も彼の内に潜む闇は消えることはなかった。
一人でできる趣味に没頭していたということもあり、少しずつチュルコは社会的に孤立していくのである。
ちなみに小児精神病院でIQを計ったところ、116もの数値があったという。
◆インターネットの闇
チュルコは小学校卒業後に職業訓練校に進学し、技術スペシャリストとして軍に徴兵される。
軍隊での訓練を経たチュルコは技術職を目指し、銃器や武道への興味を深めた。
除隊後、彼は若くしてとある保険会社のIT部門の責任者となった。
そうして成人後、チュルコは技術者としてのキャリアを積む一方で現実からの逃避を求め、次第にインターネットの闇に引き寄せられていった。
チュルコは夜な夜なとあるサイトに入り浸り、オリオン218というハンドルネームで異様なコミュニティに参加した。
そこは、死にたい願望を持つ人々のコミュニティだった。
そこでチュルコは何人かのユーザーと対話し、彼らの苦しみに寄り添うかのように振る舞ったが、実際には頭の中で冷徹な計画を練っていた。
そのとあるサイトとは、なんと「人食いフォーラム」。
ユーザーの中には、死ぬ方法として誰かに食べられたいという願望を持つ人もいたのである。
2010年、チュルコは二人の女性に出会う。
彼女たちは生きることへの希望を失っており、苦痛なく最期を迎えたいと願っていた。
チュルコはコミュニティ内で彼女たちに巧みに近づき、「痛みのない方法で天国へ行ける」と約束した。
6月23日、エレナ・グジャコヴァ 30歳
9月3日、ルシア・ウクナロヴァ 20歳
日にちこそ別々だったが、チュルコはこの2人の女性を同じ方法で殺害。
女性たちはチュルコとのメッセージの中で、殺されることに同意していた。
チュルコは女性を森に連れ出すと、薬を与えて眠りにつかせ一撃で命を奪った。
目の前に横たわる遺体に対し、彼の表情には感情のかけらもなかった。
いくつものナイフで遺体を処理しながら、彼は冷徹に「次の犠牲者」を思い描いていたのだ。
そして欲望のまま食べたい部分を食べ、残った分は冷蔵庫に保管したのだった。
◆最後の男性
2011年の春。
スイスのとある町に住む男性・マルクスは、仕事の人間関係に悩み押しつぶされそうになっていた。
彼の苦悩は限界に達し、ついには自ら命を絶つことを考え、例の人食いフォーラムに投稿をしてしまう。
「どうかお願いです、どなたか、僕の人生を終わらせてくれませんか?」
これに反応したのは もちろんマテイ・チュルコだった。
チュルコはマルクスに共感し、同情し、「そんなに辛いのならば私がその役目を引き受けましょう」とメッセージを送った。
当然、優しい言葉を打つチュルコの心には良心などなかった。
その頭の中は、マルクスのどの部分を食べようかという思いで埋め尽くされていたのである。
マルクスは筋トレで締まった自分の体の画像をチュルコに送りながら、実をいうと半信半疑でチュルコとのやり取りを続けていた。
なぜなら、こんな犯罪になってしまう提案を引き受けてくれる人なんているわけがないと思っていたからだ。
しかも人が人を食べるなど、冗談だとしか思えなかった。
メッセージをくれる彼だって、きっと冷やかしに違いない。
マルクスがその旨を書いたメールを送ると、チュルコからの返信には「驚くべき画像」が添付されていた。
そこに写っていたのは、人間の遺体や料理される肉片。
「私は本気ですよ、必ずあなたの希望通りにいたします。ぜひ会いませんか?」
現実を突き付けられた瞬間だった。
とてつもない恐怖を叩き込まれ、これはマズいと怯えたマルクスはすぐさま地元警察に通報。
スイス警察は初めはマルクスの言葉を信じなかったが、フォーラムとメッセージのやりとり全てに目を通して、ようやく事の重大さに気付いた。
マテイ・チュルコという男がスロバキアに住んでいることも判明し、スイスとスロバキアの当局は共同でチュルコを追う作戦を展開した。
そうしてスロバキアの特別捜査官がマルクスのフリをしてチュルコとやりとりを続け、ついにチュルコと会うことになったのである。
◆当日とその後
捜査は慎重に行われ、マルクスに変装した捜査官がチュルコと接触する計画が立てられた。
そうして話は冒頭に戻り、チュルコと偽マルクスが顔を合わせる。
ちなみにこの時、周囲にはスナイパーが配置されていた。
なぜならチュルコはマルクスを手にかけるつもりでやってきており、多数の凶器や銃を持っていると思われたからである。
しかしどんな恐ろしい怪物が現れるのかと思いきや、チュルコの風貌は一般的に年相応の男性そのものだった。
「それじゃあ行こうか、僕達だけの場所へ。そこで僕があなたを食べてあげますよ」
実際にそんな台詞を吐いたかは分からないが、とにかくチュルコは目の前の男性をマルクスだと信じきり、自身の正体と目的を明かした。
マルクスに扮していた捜査官が即座に銃を抜き、銃口をチュルコにを向けて「手を挙げろ!」と声を張り上げる。
チュルコの顔から笑みが消えた。
そして次の瞬間――なんとチュルコは捜査官に向けて持っていた銃を発砲し、彼の胸を打ち抜いたのである。
そこからは早かった。
チュルコ自身も撃たれて地面に倒れ、その場で絶命が確認された。
チュルコに撃たれた捜査官はすぐさま救急で運ばれ、一命は取り留めている。
チュルコのリュックからは、様々な物が発見された。
相手の意識を奪うためのウォッカが3本、折りたたみ式のナイフ、匂い隠しのための黒コショウ、ビニール袋、タオル、ゴム手袋、プラスチックの手錠、大型ナイフ、ハンドサイズのノコギリなど。
その後の家宅捜索でも多数の武器と共に遺体の写真等が発見され、チュルコが行なっていた残酷な行為が次々と明らかになっていった。
チュルコのパソコンを調べると、マルクス以外にもチェコに住む若い男性とのやりとりが発見された。
そして後の調べで、発見された遺体の一部が「行方不明扱いだったエレナとルシア」のものであると判明。
酷いことに、エレナとルシアとのメッセージの中では、命を奪うことへの同意はあっても、その後で食べるということに関しては一言も書かれていなかった。
公式に確認された被害者は、エレナとルシアの2人。
しかしなんとイタリアでも、チュルコに関連する失踪事件が多数報告されている。
チュルコが例のコミュニティで接触していたとされる、25歳から28歳の女性たち。
その中の実に28人が、2009~2011年5月の間に行方不明となっており、スロバキア当局は「チュルコの被害者が2人どころかそれ以上いる」可能性を考えている。
だが、残念ながら2009年以前のログを確認することができなかったそうだ。
マテイ・チュルコは既に亡くなっているため、数々の疑問はそのままになっている。
★
ネットを通じて志願者に接触し、神をも恐れぬ行為をしていたマテイ・チュルコ。
今の時代SNSは必要不可欠なツールだが、実際にこんなことが起きてしまうのも現実である。
この事件より6年後の2017年には、神奈川県座間市でも似たような事件が発生している
他にもSNSが原因で起こる事件には、未成年者が被害に遭うことも多い。
しかしSNS犯罪やネットリテラシーについての対策を考えるのも大事だが、それと同じく「自ら命を手放したい」と思う人の問題も、社会で考えなければならない。
ルドルフ

本事件を動画で見たい方はこちら
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